■著者:秦風、楊国慶、薛氷
■出版社:広西師範大学出版社
■発行時期: 2006年7月
■頁数:279頁(80千字)
■サイズ:230×165×14(mm)
■色:白黒
■写真点数:262枚



【写真・上】
表紙です。写真は1938年3月末に南京を訪問され、光華門を巡察される東久邇宮稔彦王。


【写真・中】「大虐殺」の7ヵ月後の1938年7月に中山路で撮影された写真。和服を着て南京市内を歩く日本女性。男性の同行者を伴わずに女性二人だけで歩いているのでしょうか?・・・左には日本軍兵士が見えるが武装はしていない。


【写真・下】1939年3月、中華門にて通行人を検査する日本軍兵士。当時日本軍は南京市民に「良民証」を発行して、中国軍兵士などがまぎれ込まないようにしていた。この兵士は城門の警備・通行人の検査のために武装はしているものの、後ろ重心に立って小銃は右手に持っていることに注目されたい。これではいざという時にすぐに撃てない。キャプションでは「中国兵を発見すればすぐに屠戮した」と書かれているものの、写真からはあまり緊迫した様子が見られない。


原題は「鉄蹄下的南京」(鉄のひづめの下の南京)といい、副題に「日本侵華的佐証民族屈辱的記憶」とあります。

この写真集は以下のような10章構成となっています。

1:日軍分兵進攻南京(写真:13枚)
日本軍による南京攻撃の写真。

2:破城的悲歌(写真:48枚)
城内進攻、占領までの写真。この写真集はいわゆる「大虐殺」を扱ったものではないのですが、一応「虐殺」の証拠写真とされる写真も幾つか掲載されています。(船上から機関銃を発射し、双眼鏡で着弾確認をしている?ような写真で、そんな風にして「虐殺」をするとはちょっと考えにくいのですが・・・)

3:日本対南京的軍事統治(写真:41枚)
松井石根大将の入城式から始まります。松井石根大将の写真のキャプションで「判決後絞首刑に処し、死体を火葬した後に骨灰を軍艦で海上に運び撒いた。復仇者の招魂を免れるためである」とあります。ちょっとスマートではない拙訳ですが、原文のテイストに近くするためにわざとやっています。7人のA級戦犯の遺骨がそのようにして散骨されたのは良く知られた事実ですが、このキャプションを読んで考えていると、どうもこの散骨処分というのは、中国からの提案でなされたのではないかという気がしてきます。西洋人的な感覚で、復仇者が遺骨をよりしろにして、犠牲者の魂を招くとか、ちょっとなさそうな感じですね。
「日本軍は士兵たちの神道宗教信仰を利用して、強大な精神力を発揮させると共に、極端なる愚昧と残忍さを導いた」というキャプションもあり、あちらの国では日本の神道がどんな風に伝えられているのかが垣間見られます。
最後は1938年2月5日に日本大使館(当時は南京が首都ですから大使館は南京にあります)にて外国使節を招いて開かれた招待会の会食シーンが表れます。「第11師団第十旅団旅団長天谷真次郎少将は、全世界に向けて南京大虐殺の残虐なる真相を暴露した西洋各国人士を厳しく非難し、彼らの正義の行いを『中国人の反日感情を扇動した』と口汚く中傷し、これを日本に対する敵意だとして、威嚇恫喝をもって西洋人のさらなる日本軍の侵略罪行の暴露を阻止せんとした」というキャプションが添えられています。本当にそんな発言があったのか、確認してみたくなりますね。

5:南京最初的偽政権(写真:20枚)
1938年1月1日に成立した“自治委員会”の写真に始まり、「中華民国維新政府」(上海に成立した親日政権)、南京への移転、都市の復興などが掲載されています。

6:鉄蹄下敵黎民(写真:23枚)
日本軍占領下の1938年2月から1939年8月までの南京と市民の様子を伝える写真が掲載されています。特になんでもないような感じの写真ばかりなのですが、「日本軍に演出されている」というような論調のキャプションがついてきます。これらのキャプションのつけ方は「宣伝」のお手本と呼ぶべき秀逸ぶりで、なかなか勉強になります。

7:苦悩的歳月(写真:56枚)
前章に引き続き、占領下の南京の様子が続きます。和服を着た女性が二人並んで歩く写真があるのですが、「大虐殺」の7ヶ月後に日本女性が和服を着て街中を歩けるほどに南京の治安が安定していた?ということにはちょっと驚きです。(というのも、現在であっても、中国を旅しているといきなり日本人だというだけの理由で後ろから殴られたりするのですから・・・)この写真集の中で、この章が最も頁数を割かれているわけですが、他にも占領下の南京の状況を伝える写真が多くあり、それらの写真には正直なところ戸惑わされます。街の治安が回復し、復興し、平和を謳歌している様子があまりにもよく出ているからです。それは日本軍による演出なのだと、全ては虚実なのだとして、キャプションは訴え、この章のタイトルは「苦悩的歳月」とされているわけですが、眺めている内にどこまでが日本軍による演出で、かりそめの復興なのかは良くわからなくなってきます。この本の企画意図は、いわゆる「虐殺」以外の当時の南京の写真をもって、日本軍による占領の実態に迫ろうという「野心的」なものなのですが、見ているうちに本当にここは少し前まで日中両軍が衝突した激戦地で、大虐殺の行われた場所だったのか?わからなくなってしまうような写真ばかりなのです。

8:汪精衛的漢奸活動(写真:35枚)
汪精衛氏の南京入りの様子を35枚の写真で詳細に追っています。

9:慶祝“還都”的閙劇(写真:16枚)
南京における汪精衛政権の樹立と、その式典などが紹介されています。

10:光復与審判(写真:10枚)
いきなり飛んで1945年9月9日の投降式の写真から始まります。銃殺されるため拘引される谷寿夫中将は人民服を着せられて帽子をかぶり、両脇にいる兵士に腕をつかまれて群衆の中を引っ張られています。処刑されようとしている向井敏明少尉、野田毅少尉、田中軍吉大尉の写真は手錠を掛けられたままで最後の万歳をしている様子を撮ったもののようです。その他漢奸の写真が続きます。この章のタイトルは「光復と審判」ですが、審判を受ける写真は陳公博と陳璧君だけで、後の「被告」は処刑されるところを撮ったものばかりです。審判を受けているところの写真は無かったのか?出せないのか?と思わされます。陳璧君は病死しているため処刑写真がないわけですが、法廷での様子を写したとされる写真は人だかりでごった返していて、一体どういう状況で裁判が行われているのかよくわかりません。

この写真集はいわゆる「大虐殺」が行われたとされている南京の攻略・占領・戦後にスポットライトをあてた内容となっており、従来の「南京大虐殺」ものの写真集とは一線を画するものなのですが、巧みにつけられたキャプションを越えて、一つ一つの写真が饒舌に「南京の真実」を伝える内容となっているようにも思えます。近年中国で発行された南京関連の写真集の中では注目すべき一冊と呼べるのではないでしょうか。

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