▲【参考映像】去年のカシュガルでの武装警察による日本人記者暴行事件を伝えるニュース。

取材中の共同通信記者に暴行=中国当局(時事通信)

共同通信によると、北京市中心部の天安門広場近くの有名ホテル・北京飯店の客室で軍事パレードの予行演習を取材していた同社の記者ら3人が18日夜、部屋 に押し入ってきた中国当局者に暴行を受けた。当局側は「カメラ撮影は違法だ」と主張、パソコン2台が壊されたが、けがはなかった。

暴行を受けたけどケガがない・・・出血するほどのものではなかったということなのでしょうか。読売の記事では「けられるなどしたという。・・・3人ともけがはなかったが、手を後ろに組まされ、ひざまずくよう命じられ」とあります。いずれにせよパソコンは壊されちゃったみたいです。

事前に予行演習中の撮影を禁ずる通達があったそうですが、共同通信がルールを破ったからだというならば、部屋に押し入り、ケリあげて、後ろ手にしてひざまずかせて、パソコンを壊すことの法的根拠をぜひ中国当局に示していただきたいものですね。

この手のことは私も何度か体験しました。カメラを持っているだけで、後ろからいきなり服をつかまれて乱暴に引っ張られ、カメラを奪い取ろうとし、道でとうせんぼをして、耳元に大声でどなりつけてきます。

そういうことをする法的根拠を聞きますと、返事はいつも「国家規定だからだ」。じゃ、その国家規定とやらを見せて下さい、と聞くと「それは見せることは出来ない」。「ここでは勝手に撮影をしてはいけないという規定があるのだ」と怒鳴るので、「じゃ、その規定を破った者には乱暴しても構わないという規定もあるわけですか?」と聞くとそれも答えない。中国人の法治感覚というのは「ルール」があれば、それは見せる必要も説明する義務もないし、「ルール」を破った人間に対しては如何なる無法も許されるのだ・・・というもののようです。

中国での外国人記者の取材活動について調べていましたら、興味深いものを見つけました。

中国に常駐する外国人記者の取材活動について(富窪高志)

↑一体どこの方なんだろうかと思って調べてみたら国会図書館の海外立法情報調査室というところに所属している方なのだそうです。この文書、ちょっと長いですがなかなか読み応えアリです。

その中の一部を下記に引用してみます(同資料116~117頁)。

FCCCは同年8月から10月にかけても16件の取材妨害があったこと等を踏まえて、2007年11月20日、国際オリンピック委員会に対し、中国がオリンピック取材規定を遵守し、これまでのオリンピック開催国と同等の取材環境を整備することを求める「最近(2007年8-10月)の報道環境及び勧告(Reporting Conditions Update and Recommendations, August-October 2007)」を提出した(注26)。勧告には以下の5点が含まれている。

(1) 実際に干渉を受けた場合には外交部の外国人記者連絡用電話(ホットライン)が有効であるとし、その24時間の開放と周知を行うこと、また、合法的な取材によるテープなどの記録の抹消等については、担当者によって見解が異なることを是正する
(2)取材妨害を受けた記者が警察に助けを求めても適切な対応が取られないことについて、警察や公安関係者に対し、法に基づいた対応をとるよう教育すること、また外国人記者と公安関係者の紛争解決のためのメカニズムを構築すること
(3)取材に同意した者が取材前、取材中、そして取材後に暴行、脅迫、監禁される事例について、公安関係者に対し、被取材者の権利は、言論、出版、集会、結社等の自由を規定する中国憲法第35条で保障されたものであると教育すること、また、被取材者との会話を妨害された外国人記者の申出等を処理する制度を構築すること
(4) 公共スペースにおける写真撮影と報道について、報道機関が有する権利に対する理解が欠如しているため、公安関係者による恣意的な規制が行われており、公共スペースでの撮影は憲法第35条で規定された権利であると公安関係者に教育すること
(5)所持の必要のない書類の提示要請や書類の検査に不必要に時間をかける等の妨害、また理由を明示することなく行われる取材停止要請等については、まず外国人記者に対して必ず記者証と旅券を所持することを求める。そして中国公安関係者に対して、この2つを所持していれば問題ないことを周知させること、検査は数分間を超えてはならないこと、適切な対応を怠れば不要な摩擦、誤解を招くことになると注意を喚起すること

太字は当方にて加えたものです。あちらの実態がよく伝わってきますね。その後にこのような記載もありました(同資料117頁)。

FCCCは、外国人記者がこうした中国の報道環境に対処するためのガイドを、2008年4月に作成した(注27)。
ガイドは、中国の報道環境の変化を認めたうえで、特に地方政府関係者の中には外国メディアに対して不信感をいだくものが多く、嫌がらせ、妨害、監禁を受ける事例が少なくないことを踏まえ、ベテラン、新人を問わず外国人記者が効果的な取材を行えるように支援、また、遭遇する事態をあらかじめ想定できるようにするために作成された。
このガイドについて、外国人記者の取材活動を支援する助手、通訳、運転手、仲介者等中国人スタッフに関する部分(Working with Local Assistants)を以下に紹介する。
まず、中国人スタッフが直面する危険性は、外国人記者のそれに比べてはるかに大きいことに十分配慮することを求めている。例えば、外国人記者に対する暴力は、中国人スタッフが往々にして蒙るような一部の身体機能の麻痺や不随を引き起こす程度までにいたることはないとし、それは国籍によって保護されているとする。
中国人スタッフとの接触を要求する政府関係者への対応については、そのことを外国人記者に伝えるか否かは中国人スタッフの判断に任せ、伝えるよう強制してはならないとし、接触する場合には、雇用者である外国人記者の取材活動についてありのままに述べるように促すべきであるとする。これは、もし後日隠していた事実が明らかになった場合、より深刻な事態に陥ることを防止するためである。
また、中国語が話せる場合には、特に“敏感” な問題の取材については、中国人スタッフを雇用すべきではないという。取材旅行中の妨害への対応として、常に中国人スタッフと行動をともにすることが重要だとする。もし引き離されてしまうと、中国人スタッフに対する厳しい対応が予想されるからであり、引き離されないように主張することは外国人記者の責任であるとする。このほかにも、中国人スタッフを危険に巻き込まないためのきめ細かな対策を示すとともに、「あなたはそうではないが、中国の人たちは中国に居続けるしかないことを忘れてはならない」とし、外国人記者に細心の注意を払うことを求めている。

これは考えも及びませんでした。中国人スタッフが、外国人記者の目の届かないところに引き離されると危険に巻き込まれる可能性が高いわけですね。中国人が何かと外国人を憎悪するのはわかるとして、その憎むべき外国人に協力する内なる敵・・・「漢奸」に対しては更に激しい憎悪を持って対処するのはよく知られた歴史的事実であり、中国人の習性ですから、外国人記者に協力する中国人スタッフというのは、非常に危うい立場にあるわけです。

以下続けます(同資料117~118頁)。

もうひとつの大きな問題が、取材源、すなわち被取材者となる中国人の保護である。特に“敏感”、タブーとされる問題について取材する場合には、取材源を危険に陥れる可能性が高くなる。まず、取材源に対しては自分が行おうとしていることを包み隠さずに伝えること、取材源や記事で引用する人物に危険が迫らないよう、フルネーム表記を避ける、或いは特定することが困難な表現にするなどの判断が求められるとする。
特に、農村やチベットなど外国メディアとの接触が少なく外国メディアに対する監視が相対的に厳しい地域では、より慎重な対応が必要とする。また、取材終了後に何らかの嫌がらせを受ける可能性があっても取材源がそれを伝えることができない場合も想定されるとし、取材源との間であらかじめ連絡用のサインを決めておくことを勧めている。取材源が実際に嫌がらせを受け、また威嚇されている等の場合には、自国の大使館、中国外交部、又はFCCCに連絡することとしている(注28)。
ガイドはこのほか、取材旅行、実際に監禁された場合の対応、慎重な対応が要求される“敏感”なテーマや地域、外国人記者としての権利、インターネット利用等について記述している。取材妨害等の事例も踏まえて作成されたこのガイドは、また別の面から中国の実態を知ることができる内容ともなっている。

今まで経験と伝聞でわかっていたことが、よりはっきりと理解出来たように思います。

筆者は中国を故意に貶めたくて、こういうことを書いているのではないと思います。事実を集めて整理してみればこういう報告になったのでしょう。非常にいいお仕事をされていると思います。富窪さん、ありがとうございました。

【追記1】
BBC中文版によれば、9月6日の予行演習は撮影禁止だったけれど、その後はそのような通達はなかったとあります。共同通信の記者は蹴られただけではなくて「さらに頭部を殴られて、ひざまずかされて、ノートPCは廊下に投げ捨てられた」そうです。これはひどすぎますね。日本の報道を見ていると共同の記者がフライングしたので、ちょっとお灸をすえられたけど、ケガはなかったよ・・・というような軽い感じですが、実際の現場は去年のカシュガルの事件に近いような状況だったのではないでしょうか。この暴行は共同通信が通達に違反したかどうかという枠を既に越えていると思います。

【追記2】
BBC中文版とAFPによれば共同通信記者を襲撃した者は所属を明らかにしなかったそうです。日本国内報道でも「中国当局者」と書くだけで特に襲撃者の所属は書いていません。但しBBC中文版では冒頭に「再び中国の軍警による記者殴打事件が発生した」とあります。BBCだけ何か特別なソースを持っているのでしょうか・・・。この点のすっきりしないところが、ちょっと気になる事件であります。

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