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2008.06.19

党同伐異

阿Q正伝・狂人日記 他十二篇(吶喊) (岩波文庫)
魯 迅
岩波書店
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おすすめ度の平均: 4.0

4 『吶喊』
3 はじめての中国文学
5 誰の中にも存在する阿Q
4 魯迅の処女作であり、中国の近代文学の出発点となった作品
4 文学と革命の可能性


中国人の全てが反日的なのかと問われると、それは断じて否といえる。日本のアニメが好きだとか、ドラマが好きだとか、日本製品が好きだとか、そういう人がいることを指摘したいのではない。そういうジャパンプロダクツを好みながらも、反日だという人は幾らでもいる。ホンダの車が好きな共産党員だっている。春の京都に行って桜を見たいとか、源氏物語が好きだという反日家だっているのだ(本当の話だ)。洋務運動は日清戦争の敗北によって挫折したものの、「中体西用」の理念は今に生きている。小日本の産品を用いても、「中華」の主体を捨てないかぎり、彼らが思想的矛盾に陥ることはないのだ。

結局のところ、宣伝やら教育というのは完全無欠の技術ではない・・・ということなのだろうか。幼い頃から反日教育を受け、反日宣伝にあふれたメディア環境にありながらも、「これは国家の宣伝ではないか」と気付いてしまう人は往々にしているのである。ところが、そういう人々は得てして不幸である。少なくとも中国において快適に過ごしているとは言えないのである。

私の中国の友人の1人は政府機関にて勤務している。祖父母の代からの「書香之家」に育った友人は、幼いころから読書が好きで、古い本も新しい本も、何でもかんでも読んでしまう。でもそうしているとうっすらと何かに気がつき始めた。ある特定の作家の本は大陸では手に入らない。何故か出版されていない。香港やら台湾では手に入るらしい。友人に頼んで台湾や香港の本を買ってきてもらったり、送ってもらったりする。そうしている内に気づいてしまったのだ。自分が生きている社会は共産党が作り出した「マトリックス」なのだと。

こういう人は結構あちこちにいる。ただ、多くの人間はそれを黙っている。気付いているからこそ、敢えて進んでそのマトリックスの中で、それらしく振舞う。「気付いて」いるけど入党する。何故ならばそこがマトリックスの中で一番安全な場所だからだ。「エージェント・スミス」になってしまうのが一番楽なのだ。そういう人が日本叩きに同調し、デモに参加し、其処此処で愛国愛党を謳いあげながらも、私生活では日本車に乗って日本料理を食べて、日本に旅行に来たりするわけだ。こういうことを繰り返していると人間が根っこから屈折してくる。人間というものは他人を騙すことよりも、自分を偽る事の方がずっと傷つくようである。

自分を偽ることが出来ない人がいる。そういう人は他人を騙すのも難しい。中国人は嘘つきだとよく言われる。其の点おいて日本人とそんなに変わらないと思う。彼らは嘘をつき、人を騙さなければ生きていけない社会にいるだけなのだ。それでも嘘をつけない人はちゃんといる。でもそういう人はどうなるのだろう?

政府機関で勤務している友人は、今年の「カルフール」のデモの際に、友人・知人の呼び掛けに応じず、デモに参加しなかった。「どうしてお前は参加しないのだ?」と詰問され、「そんなことをして何になるのか?世界中に恥をさらすだけではないか?我々がチベットにしてきた事を謙虚に見直す必要があるのでは?」と応えた。あまりにも真っ当過ぎる正論。ただ、中国で中国人がそんな発言をすることは正しくないようで、あとでちゃっかり吊るし上げにあったらしい。どんな目にあったのかは教えてくれなかったが、友人は死にたいと思うまで追い詰められ、出来る事なら海外に移住できないだろうか、と考え始めたほどなので、一体何が行われたのかは推して知るべし、である。

「党同伐異は中国人の性質だけど・・・私はそれが恐ろしい」と、友人が言った。

「党同伐異」とは辞書によれば「意見を同じくする者と徒党を組み、意見を異にする者を攻撃する」という意味である。さらに付け加えると、中国人は権力や権勢を傘に着て、多数派に阿って、少数派を叩くのが特に好きである。青木直人氏が何度も指摘しているように、彼らは阿Qである。中国人の阿Q体質というものは、どうしようにも変え難く、中国社会の根本を腐敗させているように思う。

「入党すれば?」と私は答えた。それが一番安全なのだ。他にもそういう道を選んだ者を知っている。

「そうかも知れないけれど・・・私にはやっぱり出来ない」。そんな簡単に自分を偽れるものならば、どうして此処まで自分を追い詰めることになろうものか。

何処の社会にも、不器用で、嘘がつけなくて、自分を偽れなくて、他人を騙せなくて、損をする人がいる。世渡りが下手だと馬鹿にされ、要領が悪いと罵られる。

でも、私はそんな友人に一抹の希望を感じる。中国は最悪の国家かも知れないが、全ての中国人が上手く阿Qを演じられるほど、人間は単純でもないし器用でもないのだ。

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