中国に在住している日本人の間では広く知られていることなのだが、大使館のウェブサイトで登録をしておくと、不定期でメールでの連絡が届くようになっている。大体は休館日のお知らせだとか、中国のどこそこで伝染病が発生していますよ、とかそういう内容の通達なのだけれど、たまに「どこそこでデモが開かれる予定なので注意」というような連絡があったりもする。

ところが、本日送られてきた内容は、以前には無かったタイプのものであった。全文を下記に引用する。

ツ黴€北京「秀水街」でのご注意
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ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ 在中国日本国大使館

 今般、中国日本商会より当館に対し、在留邦人の方からのご連絡として、北京の「秀水街」で起きた不快な出来事につき以下のようなご報告がありました。「秀水街」は日頃から強引なことで評判が悪いところですのでご注意願います。また、単に冷やかしで店に入ったりしない、もめ事になったら急いで現場から離れる等、自己防衛をしてください。

 
 日本人二人(旅行者と留学生)が秀水街の地下一階革製品売り場を歩いていると、ある売り場に引き入れられ、女性店員からいろいろ製品を見せられた。女性店員が腕をつかんで放さず、「いくらだったら買うのか」としつこく迫った。あまりにしつこいので、留学生が中国語で、「食事の時間だし、お金もないので、そろそろ出て行かせてほしい。」と何回か言った。
 
ツ黴€ 女性店員は二人が中国語がわかると思い、「日本人が中国を攻撃している。」とわめきだした。そのうち他の店の店員も、「誰が中国を攻撃しているって?」と言いながら集まってきた。かなり剣呑な雰囲気になってきたところで、別の店の男性店員が、急に、「おまえは南京の事件を知っているのか。」「私は南京人だ。」「親戚が日本人に殺された。」などと言い出し収拾がつかなくなった。 二人は無理矢理にその場を逃れるという感じで外に出ることができ、そのまま秀水街の外へ出て行った。

どことなく中途半端な終わり方の内容である。

在中国日本国大使館や各地領事館のウェブサイトの愛読者であれば、ご存知のことかと思うが、大使館・領事館関係者はいつもかなり婉曲的な、迂遠な書き方をする。日本の大使館といえども中国政府の監視下にあるわけだから、下手なことが書けないという事情なわけだが、愛国的な方々には評判の悪い外務省職員といえども、やはり日本人である。邦人の安全を守るために、色々な形にして情報を配信している。ただ直接的に「中国の○○が危険だ。○人が殺された。○人が刺された。だから気をつけろ!」というようなことは書けない。というわけで中国政府に「配慮」した内容になっているのだが、よく読みこなせば「ああ、なるほど」ということがわかるようになっている。

で、今回のメールである。長年、大使館発行のメールを愛読している私も、こういう内容のメールは今までに覚えがない。中国でこういうトラブルは日常的に発生している。もしこんなことをいちいち大使館がウェブに掲載し、メールで連絡するのならば、毎日毎日中国各地でのトラブル情報を列挙することになってしまう。私自身この数年で年2~3回づつくらいこういうことがある。去年の私の「レコード」で言えば殴られたのは2回、物盗りに襲われたのも2回である。反日暴動が華やかだった頃には、日本人というだけの理由で刀で(「刀」なのである)脅されたこともあるのだが、その際に領事館へ報告をしたものの、私の事例は惜しくもメールでの連絡の選には洩れたらしい。今回の北京での事件は、それに比べて別に生命が危険にさらされたというわけでもない。ではどうして今回はわざわざメールにて通達する必要があったのか?ということになる。

大使館ウェブの通例からして「控えめな事実しか書けない」というルールがある。大使館で勤務されてる筆者氏は「ある事実」から推し量ってなんらかの「結論」を出す事を極力さける。なので、こういう風に事実だけを報告して、どこか尻切れトンボ的な報告がある時は「この事実から大使館が何を言いたいのかを推測しなさい」というメッセージなのだ。なので毎度こういう「大使館・領事館からのメッセージ」を解読するのは楽しい。あんまり面白がってはいられない内容なのだけれど、大使館・領事館がメッセージを発する場合は、彼らの情報網にほぼ間違いの無い「確実な何か」がキャッチされた時なのだ。

そして大使館・領事館がメッセージを発するのは「邦人が広く共有すべき情報」のみである。いちいち細かい犯罪被害などを報告すればキリが無い。そして過去のことをいちいちあげつらっても、仕方が無い。彼らがメッセージを発するのは「これからも起りえる・起るであろうこと」を知らせる為なのだ。

それでは今回のメッセージで彼らは何を伝えたいのだろうか?

まず「中国日本商会」であるが、これは在中国日本商工会議所のことである。情報の出所を明らかにしている。実のところ、海外にいると色んな「未確認情報」が邦人同士の間で交わされるのだけれど、これはいい加減な与太話ではないのだということを示している。

そして場所なのだが「秀水街」というのは、北京のかなり中心部であり、前述の中国日本商会からもさほど遠くない。アメリカ領事館などもあり、他の国の領事館も幾つかある。かつては中国産のシルク製品やロシア製の皮製品で賑わった場所で「シルクストリート」と呼ばれたこともある。今はニセモノブランドの売られている場所として有名な(というような断定的な書き方はあんまりしない方がいいかな?)場所で、北京に住んでいる邦人や観光で北京を訪れる邦人もよく行く場所として知られている。

素直に読み取れば「そういうことがあったので、気をつけなさいよ」ということである。

気になるのは「かなり剣呑な雰囲気」や「収拾がつかなくなった」というのはどういう状況のことなのか?ということである。大使館職員の辞書で「かなり剣呑な雰囲気」、「収拾がつかなくなった」とは具体的にはどういう状況を意味する言葉なのだろうか?この二人の邦人はかなり混乱した危険な状況に陥ったのではないか、と推測される。

そして「二人は無理矢理にその場を逃れるという感じで外に出ることができ」である。「という感じで」は語気を弱めているだけのことだろう。実際はかなり混乱して殺気立った危険な状況を、「無理矢理に逃げ出した」のではないか。

どう読んでもこれは「北京は危ないぞ」といっているのである。そしてその原因は「反日感情であり、南京云々」なのである。しかし大使館なのだから「北京は危ないから来るな」とは言えない。それでは「危険勧告」や「渡航延期勧告」になってしまう。だから事実だけを並べて「あんまり行きたくなくなるような内容」を示しているわけだ。今年はオリンピックなどもあるので、この夏の中国旅行を今から計画しようと言う人もいるはずで、その流れに遠まわしに水を差しているように取れる。

繰り返すが中国でこんなことは日常的に頻繁に起る事である。それをわざわざこの時期に持ち出してきたのには何かの事情があるに違いない。長年大使館ウェブサイトを愛読し、メールを読んできた私の「勘」に従えば、日本大使館の情報網に確実な「何か」が掛かったのだと思われる。今後の北京の動向に注目である。

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